YAMADARIUM

本棚「忘れない」の棚

忘れない

深夜のコンビニと流星群

秋野唄(AKINO Uta)

何も起きなかった今日は、何もなかった日ですか。

一

この本について

バイト明けの冷たい風のなか、今日も特別なことは何一つ起きなかったと、ポケットに手を突っ込むところから始まる歌です。

「何者かになりたい」と焦るばかりの毎日。天才たちのニュースが、自分の平凡を浮き彫りにする。息苦しい世界だなって、きみは少しだけ笑いました。

流れる星を探さなくても、深夜の駐車場に座り込み、半分こにした安い肉まんの湯気だけで無敵になれる。缶コーヒーを奢り合い、くだらない冗談で、擦り減った靴底を誤魔化す。誰にも褒められない今日を、ふたりで生き延びました。

世界を変える才能も、テレビの中のヒーローになる力もない。でも冷えた手を温めるくらいの魔法は使える。何もない日々が続いていくことを、何より嬉しい奇跡と呼んで、足元を踏みしめて帰る一冊です。

二

見方を裏返す

表は、よくある見方。裏には、この詞の見方が書いてあります。

歌詞の中の、その一節へ

三

本文

読み進めるほど、言葉に灯りがともっていきます。心に残った行は、押すと栞をはさめます。金色の言葉は、ほかの本につながっています。

49 行

バイト明けの冷たい風ポケットに手を突っ込む今日もまた何一つ特別なことは起きなかった

すれ違う車のライトがぼくの影だけを長く伸ばす「何者かになりたい」と焦るばかりの毎日だ

天才たちのニュースがぼくの平凡を浮き彫りにする息苦しい世界だなってきみは少しだけ笑った

なんて 探さなくたってきみと座り込む 深の駐車場半分こにした 安いのその湯気だけで ぼくらは無敵だ平凡な今日を 笑い飛ばそうぜ

明るすぎるの下を奢おごり合うくだらない冗談で擦すり減った靴底を誤魔化ごまかして明日も早いんだよなってため息まじりにを見た

世界を変えるような才能なんてないけれど息を吸って吐くだけのこの退屈も悪くないだろ誰にも褒められない今日をぼくらふたりで生き延びた

大そうななど 語らなくたってきみがこの場所で 笑ってくれるなら百円玉で 買える温もりをぼくは誰よりも 誇りに思うよ退屈な日々を 抱きしめてやろう

テレビの中のヒーローにはきっと一生なれないねでもきみの冷えた手を温めるそれくらいの魔法は使えるさ

特別な主人公じゃなくていい奇跡の魔法など 信じなくたってきみと分け合った 深夜の駐車場最後の一口 譲り合うだけのそんなやり取りが ぼくらのすべてだ何もない夜を 愛して生きよう

星の見えない 真っ暗な空でも看板の灯りが ぼくらを照らす何もない日々が 続いていくことそれが何よりも 嬉しい奇跡だこの足元を 踏みしめて帰ろう

目録カード

「夜」が出てくる、ほかの本 16 冊

目録カード

「空」が出てくる、ほかの本 20 冊

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

缶コーヒー

UCC は、1969年のミルク入り缶コーヒーを世界初としている

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

肉まん

中村屋は1927年に、中華まんを「天下一品支那饅頭」の名で売り出した

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 語源・本来の意味

ネオン

ネオンの名前は、ギリシャ語の「新しい」から

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

流星群

流星群のもとは、彗星が放出した塵がつくる細長い帯

寄り道する

四

あとがき

流星群は、彗星が放出した塵の帯に地球が近づいたときに見えるものです。夜空の特別な出来事も、もとをたどれば、通り過ぎたものが残した小さな粒でした。中村屋が「天下一品支那饅頭」を売り出したのは一九二七年。ネオンの名はギリシャ語の「新しい」から来ています。いまでは見慣れた湯気も灯りも、いつかは誰かにとって新しいものでした。特別なことが起きない毎日は、無駄に過ぎていると思われがちです。けれど、最後の一口を譲り合った夜も、覚えている人の中では消えずに残ります。何もなかった夜を、流星群と同じ棚に置く見方があってもいいのではないでしょうか。

五

この本の歌を聴く

近日公開予定です。

六

向かいの棚から、一冊

この本とは、少し違う見方の本です。

六畳半の宇宙論逃げていい読了部屋から出ない夜に、宇宙はありますか。

「忘れない」の棚の向かいには、「逃げていい」の棚があります。

七

次の一冊を探す

この本を閉じたら、また本棚へ。