YAMADARIUM

本棚「分け合う」の棚

分け合う

隣の席の質量

秋野唄(AKINO Uta)

何も言えないとき、隣にいることはできますか。

一

この本について

部屋の隅で肩を震わすきみを前に、スマホの検索窓に「慰め方」と打ち込んでしまうところから始まる歌です。

誰かが書いた正解のマニュアルを探す自分が、少し嫌になる。気の利いたアドバイスは言えない。ただ黙って、ティッシュの箱を差し出すことしかできません。不甲斐ない自分を許してほしいと願いながら。

世の中はすぐに前を向かせたがります。でも今はまだ、立ち上がらなくていい。「頑張れ」という言葉で、これ以上追い詰めたくない。安い慰めを言わない代わりに、涙が乾く時間をあげる。解決策がなくても、同じ温度で沈んでやると決めます。

言葉にならない感情の質量を、ふたりで半分に割る。きみが泣き疲れて眠るまで、言葉よりも確かな隣の席から動かないと誓う一冊です。

二

見方を裏返す

表は、よくある見方。裏には、この詞の見方が書いてあります。

歌詞の中の、その一節へ

三

本文

読み進めるほど、言葉に灯りがともっていきます。心に残った行は、押すと栞をはさめます。金色の言葉は、ほかの本につながっています。

37 行

部屋の隅で肩を震わす きみを前にしてスマホの検索窓に「慰め方」と打ち込む誰かが書いた正解のマニュアルを探してそんな情けない自分が少し嫌になる

気の利いたアドバイスなんてぼくの口からは言えないよただ黙って差し出したの箱不甲斐ふがいない ぼくを許してほしい

綺麗な 持たないけれどきみの悲しみ 半分もらうずっと隣に 座っているよを 分け合えるから

世の中はすぐに前を向かせたがるポジティブな答えを急かしてくるけれど今はまだ、立ち上がらなくていいとことんまで落ち込んでしまえばいい

「頑張れ」なんて無責任な言葉でこれ以上きみを追い詰めたくない何もできないぼくだからこそ逃げ場のないの盾になるんだ

安い慰め 言わない代わりが乾く 時間をあげる解決策は なくてもいいさ同じ温度で 沈んでやるよ

気の利いたセリフより、ただ肩を並べること同じ重さを背負って、そこに存在すること言葉にならない感情のをぼくらふたりで、半分に割ってしまおう

無理に笑って 見せなくていい泣きじゃくるきみ そのままでいい不器用なまま 寄り添いながらこの夜の底 並んでいよう

かっこいいことは最後まで言えなかったけれどきみが泣き疲れて眠るまでぼくは隣の席から動かないよ言葉よりも確かな、この場所で

目録カード

「夜」が出てくる、ほかの本 16 冊

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

質量

月に行くと重さは約6分の1になるが、質量は変わらない

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

ティッシュ

ティッシュのクリネックスは、はじめ化粧落とし用に売り出された

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

隣にいる人と坂

友人と一緒にいる人は、同じ坂をゆるやかに見積もったという実験がある

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

泣くこと

泣いて気分が楽になるかどうかには、誰かに慰められたかどうかが大きく関わるとされる

寄り道する

四

あとがき

質量と重さは、同じものではありません。月に持っていけば、重さは地球の六分の一ほどになりますが、質量は変わりません。場所が変わっても減らないものが、質量です。二〇〇八年の実験では、友人と一緒にいる人は、ひとりの人より同じ坂をゆるやかに見積もりました。坂そのものは変わっていないのに。泣くことについての研究でも、気分が楽になるかどうかには、誰かに慰められたかどうかが大きく関わるとされています。何もできないことは、役に立っていないことだと思われがちです。感情の重さを消すことはできなくても、隣に座っている人がいるだけで、同じ坂が少しだけ違って見える。そういう考え方があってもいいのではないでしょうか。

五

この本の歌を聴く

近日公開予定です。

六

向かいの棚から、一冊

この本とは、少し違う見方の本です。

未送信の引力立ち止まる読了送らなかった言葉は、どこへ行くのでしょう。

「分け合う」の棚の向かいには、「立ち止まる」の棚があります。

七

次の一冊を探す

この本を閉じたら、また本棚へ。