YAMADARIUM

本棚「立ち止まる」の棚

立ち止まる

What the Tide Left Showing

Yamadarium

潮が引いたあとの岩の上に、何が残っていると思いますか。

一

この本について

本屋を閉めたばかりの人が、潮の引いた磯に立つ歌です。

閉店して一週間。棚はすっかり空にして、看板も下ろし、誰にも助けてとは言わなかった。一分ごとに沖へすべっていく潮は、私まで置いていくみたいに見える。

けれど石を裏返すと、そこには世界がまるごとしがみついている。拳のように閉じた赤いイソギンチャク、後ずさりで隠れるカニ、じっと動かない巻貝、小さな扉を閉じるフジツボ。誰も慌てていない。小さな海を内に抱えて、自分のペースで、海がまるごと戻ってくるのを待っている。

6時間引いて、6時間満ちる。むき出しの岩は、むき出しじゃなかった。何かが引いていったあとに見えてきた、待ちながら生きている小さな命たちのそばで、自分もその仲間になっていく一冊です。

二

見方を裏返す

表は、よくある見方。裏には、この詞の見方が書いてあります。

歌詞の中の、その一節へ

三

本文

読み進めるほど、言葉に灯りがともっていきます。心に残った行は、押すと栞をはさめます。金色の言葉は、ほかの本につながっています。

32 行

Have you ever stood where the water's just been,(海が引いたばかりの場所に 立ったことはある?)all the stones still streaming, slick and dark,(どの石も まだ水をしたたらせて 黒く ぬめって)and the air all salt and kelp?(気は 潮と海藻の匂い)

The bookstore's shut a week, the shelves are swept clean,(本屋を閉めて 一週間 棚はすっかり空にした)took the sign down, didn't leave a mark,(看板を下ろして 跡も残さず)and I didn't ask for help.(誰にも 助けてと言わなかった)

I came out here while the water's pulling back(潮が引いていくなか ここへ来た)and slipping farther out each minute,(すべるように 一分ごとに沖へ)like it's leaving me as well.(私まで 置いていくみたいに)

Turn the stone and there's a whole world, holding on,(石を裏返すと 世界中が しがみついてるんだ)red , closed up like fists,(赤いイソギンチャク 拳みたいに閉じて)it's what the tide left showing,(潮が引くのを待って 現れた)and it waits, not gone.(消えてなんかいないんだ)

A crab backs under, and a snail holds its place,(カニは後ずさりで隠れ 巻貝はじっと動かない)the shut their tiny doors,(フジツボは 小さな扉を閉じる)nobody's panicking here.(ここでは誰も 慌てていない)

They hold a little sea in, keep their own pace,(小さな海を 内に抱えて 自分のペースで)until the whole sea comes back and pours,(海がまるごと 流れこんでくるまで)and I'm one of them this year.(今年は 私もその仲間になるんだ)

, then six hours in, it keeps its track,(6時間引いて 6時間満ちる いつもどおりに)and everything that's living in it(そこに生きるものはみんな)holds the waiting in a shell.(待つ時間を 殻にしまっている)

Nose down to the tide pool, salt and rot and green,(潮だまりに 鼻先を寄せる 潮と 腐ったものと 緑の匂い)a moves in someone's old house,(ヤドカリが 誰かの古い家に引っ越す)it's what the tide left showing,(潮が引いて 現れたのは)all I'd never seen.(見たことのないものばかりだった)

When it all pulls back, the bare rock isn't bare,(何もかも引いたあと むき出しの岩も むき出しじゃない)all the stubborn little lives that waited,(待ちつづけた しぶとい小さなたち)it's what the tide left showing,(潮が引いて 現れたもの)and I'm living there.(私も そこで生きている)

Six hours, and it all comes in,(6時間で すべてが満ちてくる)I can wait for that.(その時を 私は待っているんだ)

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

イソギンチャク

引き潮で水の外に出たイソギンチャクは、触手をしまいこんで、体が乾かないようにしている

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

フジツボ

ダーウィンは『種の起源』の前に、8年をかけてフジツボの仲間を調べた

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

ヤドカリ

空いた貝殻を見つけたヤドカリは、大きい順に一列に並び、順番に殻を引っ越していくことがある

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

6時間

満潮から干潮までは、およそ6時間12分半。潮の時刻は、毎日少しずつ遅れていく

寄り道する

四

あとがき

何かが終わって、すべてが引いていったあとには、何も残らない。そう感じる日があります。でも、潮はおよそ6時間かけて引き、また6時間ほどかけて満ちてきます。そのあいだ、岩の上のイソギンチャクは触手をしまって、乾かないようにしています。ヤドカリは、誰かが手放した殻へ、順番に引っ越していきます。引いたあとの岩は空っぽではなく、待っている命でいっぱいでした。待つことは、止まっていることではなく、生きていることのひとつの形。急いで次を探さずに、潮が戻るのを待つ。そんな過ごし方があってもいいのではないでしょうか。

五

向かいの棚から、一冊

この本とは、少し違う見方の本です。

Still Red Underneath信じ直す読了燃え尽きたと思った夜、灰の下には何が残っていると思いますか。

「立ち止まる」の棚の向かいには、「信じ直す」の棚があります。

六

次の一冊を探す

この本を閉じたら、また本棚へ。