YAMADARIUM

本棚「逃げていい」の棚

逃げていい

Steam Has No Accent

Yamadarium

言葉がひとつも通じない場所で、人はどうやって打ち解けると思いますか。

一

この本について

言葉を運ぶのが仕事の人が、言葉の通じない土地の湯につかる歌です。

「タオルはお湯に入れないでください」の小さな貼り紙。まわりのおばあさんたちをまねて、たたんだタオルを頭に載せる。今週は誰かの用語で口の中がいっぱいだったけれど、ここではどの言葉も通じない。あごまで、肩まで、そしてすっぽりと湯に沈む。

凍った岩のずっと下で、私たちの名前より古い熱が、まだ温かく起きている。おばあさんがゆっくりうなずき、目を閉じたままうなずき返す。男の人が岩の上で少し詰めてくれる。ありがとうも、ごめんも知らないから、ただほほえむと、濡れた三つの顔がくしゃっと明るくなる。

湯気に訛りはない。熱にも、肌にもない。降る雪が湯気に触れて消えていくなか、言葉を手放して、うなずきと温度だけで人とつながっていく一冊です。

二

見方を裏返す

表は、よくある見方。裏には、この詞の見方が書いてあります。

歌詞の中の、その一節へ

三

本文

読み進めるほど、言葉に灯りがともっていきます。心に残った行は、押すと栞をはさめます。金色の言葉は、ほかの本につながっています。

40 行

Towel not in the water, please,(タオルは お湯に入れないでください)the small sign reads.(と 小さな貼り紙)I fold it on my head, like each(たたんで 頭に載せる まわりの)old woman, neat.(おばあさんたちみたいに きちんと)

I'm paid to carry every word,(を運ぶのが 私の仕事)this week, it hurts,(今週は それがこたえる)my mouth is full of someone's terms,(口の中は 誰かの用語でいっぱい)here, nothing works.(ここでは どれも通じない)

I lower in, up to my jaw,(あごまで ゆっくり沈む)shoulders, then all,(肩まで そして すっぽり)I close my eyes, the steam is soft,(目を閉じる 湯気はやわらかい)and nothing's taught.(説明は 何もいらない)Steam has no , nor does heat,(湯気に訛りはない 熱にもない)we all agree.(みんな うなずいてる)

Down under all the frozen slate,(凍った岩の ずっと下で), awake,(まだ温かく 起きている)a heat that's ,(私たちの名前より 古い熱)it doesn't say,(何も言わない)and nobody here needs a phrase,(ここでは誰も ひと言もいらない)we share one place.(ひとつの場所を 分け合ってる)

An old woman nods at me, slow,(おばあさんが ゆっくり 私にうなずく)I nod, eyes closed,(目を閉じたまま うなずき返す)a man shifts over on the stone,(男の人が 岩の上で 少し詰めてくれる)the water's gold.(お湯は金色)

I don't know thank you, sorry, kind,(ありがとうも ごめんも ご親切にも 知らない)so I just smile,(だから ほほえむだけ)and three wet faces crinkle, bright,(濡れた三つの顔が くしゃっと明るくなる)no need to try.(頑張らなくていいんだよ)

For once my job is out of reach,(今日だけは 仕事も ここまで届かない)and I'm at ease,(ほっとしてる)nothing to carry, none to keep,(運ぶものも 抱えるものもない)just me, and steam.(私と 湯気だけ)Steam has no accent, nor does skin,(湯気に訛りはない 肌にもない)we're kin, we sit.(みんな身内 並んで座る)

Steam has no accent, and the snow(湯気に訛りはない 降る雪は)hits it and goes,(湯気に触れて 消えていく)and all these faces, eyes half-closed,(半分目を閉じた みんなの顔が)all say the most.(どんな言葉より 語ってる)

I'll come back next ,(来年の2月 また来るね)same steam, same three.(同じ湯気 同じ三人)

言葉の寄り道 ・ 語源・本来の意味

アクセント

英語の accent は、ラテン語の「話し言葉に添えられた歌」から生まれた言葉

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

温泉

日本の温泉法では、湧き出たときに25度以上あれば、決められた成分が無くても「温泉」になる

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

地球の熱

地球の内側から出ていく熱のおよそ半分は、地中の放射性の物質から生まれている

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 語源・本来の意味

2月

英語の February は、ラテン語の「清めの月」から生まれた言葉

寄り道する

四

あとがき

わかり合うには、言葉を尽くすしかない。言葉を仕事にしていると、なおさらそう思えるかもしれません。でも、アクセントという言葉は、もとは「話し言葉に添えられた歌」という意味でした。どんな訛りも、その土地の歌のようなものなのかもしれません。地球の内側から湧き出る熱は、その半分ほどが、地中の放射性の物質から生まれていると考えられています。残りは、地球が生まれたころの熱です。私たちの名前よりずっと古い熱に、訛りはありません。同じ湯につかって、うなずき合うだけでも、もう十分に通じ合っている。言葉を休む日があっても、いいのではないでしょうか。

五

向かいの棚から、一冊

この本とは、少し違う見方の本です。

Ear to the Ice忘れない読了黙っているあいだ、胸の中では何が鳴っていますか。

「逃げていい」の棚の向かいには、「忘れない」の棚があります。

六

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