YAMADARIUM

本棚「比べない」の棚

比べない

Wilderness the Size of a Coin

Yamadarium

コイン一枚ほどの場所に、何があると思いますか。

一

この本について

十年あまり時計の歯車を直してきた人が、店の裏のレンガの壁に、小さな原野を見つける歌です。

ルーペをつけて、耳にはチクタク。この仕事はまるごと、涙ひと粒より小さい。見知らぬ誰かの思い出の品を、黙って手入れする毎日。

ゴミ袋を裏口へ出しに行くと、真っ黒なレンガの壁に、ビロードの緑がひと筋。継ぎ目にひざをついて目を細めると、そこはコイン一枚ほどの原野だった。

しずくひとつが湖で、トラックが通れば大地震。クマムシが目を覚まし、その一生はレンガ一枚の上で過ぎていく。この低さでは、1分の重みが変わる。

店のことは、あとでいい。ひざをついたまま、遅刻中。濡れたひざ、きしむ関節、片目に一点。小さな世界の中へ、自分も入っていく一冊です。

二

見方を裏返す

表は、よくある見方。裏には、この詞の見方が書いてあります。

歌詞の中の、その一節へ

三

本文

読み進めるほど、言葉に灯りがともっていきます。心に残った行は、押すと栞をはさめます。金色の言葉は、ほかの本につながっています。

35 行

I fix watch gears(時計の歯車を直して)for ten-odd years,(十年あまり) on, the ticking in my ears.(ルーペをつけて 耳にはチクタク)My whole career's(この仕事 まるごと)smaller than tears.(ひと粒より小さい)I tend to strangers' souvenirs.(見知らぬ誰かの 思い出の品を手入れする)

Trash bag, out back.(ゴミ袋 裏口へ)The brick wall's black(レンガの壁は 真っ黒)except a green and track.(ビロードの緑が ひと筋 走るだけ)Kneel where bricks join,(レンガの継ぎ目に ひざをつく)squint to a point,(目を細めて 一点に)wilderness the size of a coin.(コイン一枚ほどの 原野なんだ)

One drop's a lake.(しずくひとつが 湖)Green stems that shake,(揺れる 緑の茎)a truck goes by, a whole earthquake.(トラックが通れば もう大地震) wake.(クマムシが目を覚ます)Their whole lives take(その一生は まるごと)place on one brick, make no mistake.(レンガ一枚の上で過ぎていく まぎれもなく)

The shop can wait.(店のことは あとでいい)Kneeling, I'm late.(ひざをついたまま 遅刻中)Down here, the minutes change their weight.(この低さでは 1分の重みが変わる)None out of joint,(どこにも狂いはない)who'd disappoint?(誰ひとり がっかりさせない)Wilderness the size of a coin.(コイン一枚ほどの 原野なんだ)

Small. Is. Not. Less.(小さい。けど。ちっぽけ。じゃない。)Each. Stem. Says. Yes.(どの。茎も。うなずいてる。)One. Inch. Holds. All. This. Wild. Green. Mess.(指先。ほどに。ぜんぶ。ある。この。緑の。野生の。ごちゃまぜ。)Need. Not. Impress.(すごいと。思われ。なくて。いい。)Who. Needs. Success?(成功。なんて。誰に。必要?)I. Fix. The. Small. And. I'm. No. Less.(私は。小さな。ものを。直す。それで。少しも。ちっぽけ。じゃない。)

Wet knees, stiff joint,(濡れたひざ きしむ関節)one eye, one point,(片目に 一点)wilderness the size of a coin.(コイン一枚ほどの 原野なんだ)

I'm in. I join.(私も入る 私も加わる)Wilderness the size of a coin.(コイン一枚ほどの 原野なんだ)

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

クマムシ

コケの中にも暮らすクマムシは、乾くと体を縮めて眠ったようになり、水が戻ると、また動きだす

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 語源・本来の意味

ビロード

ビロードは、ポルトガル語の veludo(ベルード)がなまった言葉。16世紀に南蛮船が日本へ運んできた

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 語源・本来の意味

ルーペ

時計職人や宝石職人の拡大鏡 loupe はフランス語から来た言葉で、もとは「傷のある宝石」を指したといわれる

寄り道する

四

あとがき

小さな仕事は、目立たない、ちっぽけなもの。そう思われがちです。でも、レンガの継ぎ目のコケの中には、クマムシが暮らしています。1773年、ドイツの牧師がこの生きものを「小さな水のクマ」と名づけて書き記しました。乾くと体を縮めて眠り、水が戻ると、また動きだします。その一生は、レンガ一枚の上でも、まるごとひとつの生き方です。時計の歯車も、ルーペを当てなければ見えない大きさで、誰かの毎日の時間を刻んでいます。小さいものを、無理に大きく見せなくてもいい。ひざをついて目を近づけたときにだけ見える世界も、ちゃんとあります。

五

向かいの棚から、一冊

この本とは、少し違う見方の本です。

Waving at the Space Station分け合う読了その悩み、宇宙からも見えますか。

「比べない」の棚の向かいには、「分け合う」の棚があります。

六

次の一冊を探す

この本を閉じたら、また本棚へ。