YAMADARIUM

本棚「忘れない」の棚

忘れない

Ear to the Ice

Yamadarium

黙っているあいだ、胸の中では何が鳴っていますか。

一

この本について

凍った湖に寝そべって、氷に耳をつけた人の歌です。

「旗の内側にいなさい」と父が言う。まだ9歳の子どもみたいに。うなずいて、そのまま進む。父が家を出ていったことを、母にはまだ言えていない。平気な顔を、くずさないまま。

町から半マイル沖で、頬を冷たい氷にあてる。はるか昔からの湖が、弦をはじいたようにうなっている。ぴたりと止まって見えても、歌える。日が傾くと氷の粒が縮んで、しがみつくような音がする。痛いんじゃない、動いているだけ。

9歳のころ、父の古いコートを着て、湖が長くひと声歌うのを聴いた。あの頃は何も怖くなくて、思ったことをすぐ口にしていた。

届けられなかった言葉をひとつ残らず抱えて、旗の内側を戻っていく。氷の上で、自分の声を取り戻していく一冊です。

二

見方を裏返す

表は、よくある見方。裏には、この詞の見方が書いてあります。

歌詞の中の、その一節へ

三

本文

読み進めるほど、言葉に灯りがともっていきます。心に残った行は、押すと栞をはさめます。金色の言葉は、ほかの本につながっています。

43 行

Stay inside the flags, Dad said,(旗から出るな 父が言った)like I'm still just nine.(まだ9歳の子どもみたいに)I just nodded, went ahead.(うなずいて そのまま進んだ)Mom asked was I fine.(母さんは 大丈夫? と訊いた)Haven't told her he moved out,(あの人が出ていったこと まだ言えてない)kept my face in line.(平気な顔を くずさずに)

Ear to the ice, I lie down,(氷に耳をつけて 横になる)flat, cheek to the cold,(うつぶせて 頬を冷たさに) out from the town.(町から 半マイル沖で)The lake, ages old,(はるか昔からの湖が) like someone touched a string,(弦をはじいたみたいに うなる)bending, uncontrolled.(音がたわむ 抑えきれずに)Looks dead still, but it can sing.(ぴたりと止まって見えても 歌える)Still is not a thing.(止まってるものなんて ない)

Sun's slipping, losing its light,(日が傾いて が落ちていく)shrinking every grain.(氷の粒が ひとつ残らず縮む)That's the sound of holding tight,(あれは しがみついて こらえる音)shifting, not in pain.(痛いんじゃない 動いてるだけ)I've been holding still since fall,(秋からずっと じっとこらえてきた)flat as winter plain.(冬の野原みたいに 平らなまま)

Ear to the ice, and I hear(氷に耳をつけると 聴こえる)all I kept inside(胸にしまってきた すべてが)sung out where the stand clear,(葦の立つ岸のほうで 歌になって)rolling, long and wide.(うねりながら 長く 広く)Nothing's split and nothing's lost,(何も割れてない 何もなくしてない)it just moved aside.(ただ 少しずれただけ)Singing's how it gets through ,(歌いながら 冬を越えていく)that's the only cost.(払うのは それだけ)

I was nine, in Dad's old coat,(9歳の私 父さんの古いコート)sleeves down to my knees,(袖は膝まで)heard the lake sing one long note,(湖が 長くひと声 歌うのを聴いて)thought the lake could sneeze.(湖もくしゃみするんだと思った)I was scared of nothing then,(あの頃は 何も怖くなかった)spoke right out with ease.(思ったことは すぐ口にしてた)

Ear to the ice, I'll go back,(氷に耳をつけたまま 戻ろう)tell them how it went,(何があったか 話そう)inside the flags, down the track,(旗の内側を わだちをたどって)every word unsent.(届けられなかった ひとつ残らず)Let it ring for miles around,(あたり一面に 響かせよう)bending, but unbent.(たわんでも 折れはしない)Cheek against the singing ground,(歌う氷に 頬をあてて)I can make a sound.(私も 声を出せる)

Funny thing is, I'm not cold.(不思議だね 寒くないよ)

言葉の寄り道 ・ 古典の一句

葦

「人間は考える葦である」は、パスカルの死後にまとめられた『パンセ』の一節

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

氷の音

凍った湖の氷は、気温が変わるたびに伸び縮みして、ひびの音や、太鼓の皮のように震える音を立てる

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

霜

気象の言葉では、葉の一部にしか見えない霜は「弱い霜」、地面が一面に白く見える霜は「強い霜」

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

半マイル

1マイルはちょうど1609.344メートル。半マイルは、およそ800メートル

寄り道する

四

あとがき

黙っていられる人は、強い人。そう思われがちです。でも、凍った湖の氷は、気温が上がったり下がったりするたびに伸び縮みして、ひびの入る音や、太鼓の皮のような震える音を響かせます。幅1マイルほどの湖なら、少し暖かくなるだけで、氷は1メートルあまりも外へ広がろうとするそうです。止まって見えるものほど、内側では動き続けているのです。黙っているあいだも、胸の中では、いろいろなものが鳴っているのかもしれません。平気なふりがうまいことだけが、強さではないはず。9歳のころのように、思ったことを少しだけ声にしてみてもいい。湖の氷も、歌いながら冬を越えていくのですから。

五

向かいの棚から、一冊

この本とは、少し違う見方の本です。

The Valley Kept My Name選び直す読了ありったけの声で呼んだら、何が返ってくると思いますか。

「忘れない」の棚の向かいには、「選び直す」の棚があります。

六

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