YAMADARIUM

本棚「選び直す」の棚

選び直す

The Valley Kept My Name

Yamadarium

ありったけの声で呼んだら、何が返ってくると思いますか。

一

この本について

山の頂に初めて登りきった人が、ありったけの声で自分の名前を呼ぶ歌です。

ここまで来るなんて、誰も思っていなかった。何年も何も感じないまま、合図どおりに拍手をしてきた。「いやだ」と言ったら、私は誰になるのだろう。

だから両手を口にあてて、背すじを伸ばす。テス、と放った声を、連なる峰がひとつずつ次へ投げ渡していく。待つこと3秒。澄んで、少し遅れて、声が返ってくる。同じようで、同じじゃない声。

遠く、陽炎の向こうから、姿の見えない誰かの叫ぶ声も降ってくる。花崗岩の壁が、ふたりの呼び声を手から手へ回していく。

「ごめんね」「大丈夫」と小さくしてきた声を、使わずにとっておいた叫びに変えて。谷が預かっていた自分の名前を、山の下まで連れて帰る一冊です。

二

見方を裏返す

表は、よくある見方。裏には、この詞の見方が書いてあります。

歌詞の中の、その一節へ

三

本文

読み進めるほど、言葉に灯りがともっていきます。心に残った行は、押すと栞をはさめます。金色の言葉は、ほかの本につながっています。

56 行

Tess!(テス!)first time,(はじめて)climbed it, done,(登りきった)none of them would think I'd come.(私が来るなんて 誰も思わない)

Numb for years,(何年も 何も感じずに)cheered on cue,(合図どおりに 拍手してきた)who'd I be if I said no?(「いやだ」と言ったら 私は誰になる?)

So, both hands,(だから 両手を口に)stand up tall,(背すじを伸ばして)all the air I've got, I call(ありったけの息で 呼ぶ)Tess, it goes,(テス と声が飛んでいく)rows of peaks,(連なる峰)each one tosses it along.(ひとつずつ 次へ投げ渡す)

Wrong? Not here.(まちがい? ここでは ちがう)Clear and late,(澄んで 遅れて)wait, , then it came.(待つ 3秒 返ってきた)Same, not same,(同じようで 同じじゃない)framed in stone,(岩に縁どられて)known, the kept my name.(知ってたんだ 谷は私の名前を 預かってた)Claimed it back.(取り戻した)

Far off, faint,(遠くで かすかに)paint-thin, sweet,(絵の具みたいに 淡く 甘く), someone else's shout.(陽炎の向こう 誰かの叫ぶ声)

Out of sight,(姿は見えない)bright and small,(明るく 小さく)fall together, theirs and mine.(重なって降ってくる その人の声と 私の声)

Twine and blend,(合わさって 混ざりあう)lend me yours,(あなたの声を貸して)course I'll holler back to you(もちろん 叫び返すよ)Two of us,(私たち ふたり)just two calls,(たったふたつの 呼び声)walls of hand them round.(花崗岩の壁が 手から手へ回す)

Found, unseen,(見えないまま 見つけあう)leaned on rock,(岩にもたれて)talk across a mile of blue.(はるかな青を越えて 話す)True, both sides,(ほんとうに 向こうもこちらも)rides the drop,(切り立つ谷を すべって)stop, the valley kept my name.(ほら 谷は私の名前を 預かってた)Same with yours.(あなたの名前も)

Sorry. Fine. fine, fine(ごめんね 大丈夫 大丈夫 大丈夫)Mine went small. small, small(私の声は 小さくなった 小さく 小さく)Called it kindness, all those years. years, years(それを優しさと呼んできた 何年も 何年も 何年も)Here's my own. own, own(これが私の声 声 声)Grown, and loud. loud, loud(育って 大きく 大きく 大きく)Proud it took so long to land. land, land(長くかかって 胸をはって 届いた 届いた 届いた)

Tess, full voice,(テス 声いっぱいに)choice, no fear,(自分で選んだ 怖くない)here's the shout I didn't spend.(使わずにとっておいた叫び ほら)Send it wide,(広く放って)ride the slope,(斜面に乗せて)hope it reaches someone's ears.(誰かの耳に届けばいい)

Clears the top,(頂を越えて)drop the hush,(黙るのは もうやめて)rush, the valley kept my name.(あふれて 谷は私の名前を 預かってた)Same voice, mine.(同じ声 私の声)

Heading down, I'll bring it home. home, home, home(山を下りて 連れて帰ろう 帰ろう 帰ろう 帰ろう)

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

陽炎

陽炎は、温められた空気と冷たい空気がまざって、光が不規則に曲がるために起こる。俳句では春の季語

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

花崗岩

花崗岩は「御影石(みかげいし)」とも呼ばれる。神戸の御影でとれた石材の名前が広まったもの

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 語源・本来の意味

こだま

山で声が返ってくるのを、昔の人は、木や山に宿るものが応えていると考えて「木霊(こだま)」と呼んだ

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

3秒

叫んでから3秒で返ってくる声は、500メートルほど先の岩に当たって戻ってきた声

寄り道する

四

あとがき

大きな声を出さずにいるのは、やさしさ。そう思われがちです。でも、山で叫んだ声が返ってくるのを、昔の人は、山や木に宿るものが応えているのだと考えて「こだま」と呼びました。3秒たって返ってくる声は、500メートルほど先の岩に当たって戻ってきた声です。声は、思っているよりずっと遠くまで届きます。「ごめんね」と「大丈夫」で小さくしてきた年月も、なかったことにはなりません。ただ、ずっとそのままでなくてもいい。ありったけの声を一度だけ放ってみたら、見えない誰かの声と重なって、自分の名前がいつもより自分のものに聞こえるのかもしれません。

五

向かいの棚から、一冊

この本とは、少し違う見方の本です。

Ear to the Ice忘れない読了黙っているあいだ、胸の中では何が鳴っていますか。

「選び直す」の棚の向かいには、「忘れない」の棚があります。

六

次の一冊を探す

この本を閉じたら、また本棚へ。