YAMADARIUM

本棚「忘れない」の棚

忘れない

The River Has a Floor

Yamadarium

誰かを支えてきたあなたを、支えているものは何ですか。

一

この本について

3年ぶりの休みに、川の深みで仰向けになる人の歌です。

薬とお盆の3年間。おばあちゃんを預けてきた最初の一週間、誰も具合が悪くない日に、何をしていいかわからない。耳を水に沈めると、低いうなりの下から、瓶の中のボタンのような音が聴こえてくる。川には底があって、小石たちが転がりながら、おしゃべりをしている。

ここは、5歳の私をおばあちゃんが水に浮かべてくれた場所。背中の下の両方の手のひらは、いつのまにか片手になり、やがて両手とも離れていた。それでも私は沈まなかった。そして今は、私があの頃のおばあちゃんのように、おばあちゃんを支えている。

支えられていた私と、支えている私。5歳と31歳がいっしょに水に浮かび、川底の音に呼び戻されていく一冊です。

二

見方を裏返す

表は、よくある見方。裏には、この詞の見方が書いてあります。

歌詞の中の、その一節へ

三

本文

読み進めるほど、言葉に灯りがともっていきます。心に残った行は、押すと栞をはさめます。金色の言葉は、ほかの本につながっています。

43 行

Ears under. goes thick.(耳が沈む 音がこもっていく)I lie back in the deep part, arms out wide,(深みで仰向けに 両腕を広げて)the clouds go their own ways,(雲は 思い思いの方へ)first week off in three years of pills and trays,(薬とお盆の3年で はじめて取れた 一週間の休み)Gran's cared for, I'm outside,(おばあちゃんは預けてきた 私は外にいる)I don't know what to do when no one's sick.(誰も具合が悪くないと 何をしていいか わからない)

And then, under the hum,(すると 低いうなりの下から)a clicking, soft, like buttons in a jar,(瓶の中のボタンみたいな やわらかな音がした)The river has a floor,(川には 底がある)and every on it rolls and talks,(小石がひとつ残らず 転がって おしゃべりしてる)a thousand little knocks,(千の 小さなノック)I never heard it, standing on the bank.(岸に立っていた頃は 一度も聴こえなかった)

This is the spot she stood,(ここは おばあちゃんが立っていた場所)her two hands flat beneath my back, age five,(5歳の私の背中の下に 両方の手のひら)her voice right by my ear,(声は 耳のすぐそば)she took one hand away, I didn't hear,(片手を離しても 私は気づかなかった)then both, and I survived,(それから両手とも 私は 沈まなかった)and now I hold her up, the way she would.(今は 私がおばあちゃんを支えてる あの頃のおばあちゃんみたいに)

I tip my head back more(頭をもう少し 後ろへ倒して)and let the water fill my ears again,(もう一度 耳を水で満たす)

The river has a floor(川には 底がある)where every stone gets carried for a while,(どの石も しばらく運ばれて)then set down, gentle, slow,(そっと ゆっくり 下ろされて)and then it holds the next one, down below,(今度は その下で 次の石を支える)I hear it, mile by mile,(川下まで ずっと 聴こえる)the clicking of a hundred years or more.(百年も それ以上も 続くカチカチ)

Lie back, I've got you, love,(仰向けになって ついてるよ)your ears go under, that's all right, my dear,(耳が沈んでも 大丈夫)just watch the clouds go through,(雲が流れていくのを ただ見てて)and when you can't feel me, I'm still with you,(私を感じなくなっても ちゃんとそばにいる)I've got you, never fear,(ついてるよ 怖くないよ)lie back, lie back, I've got you, that's enough.(仰向けに 仰向けに ついてるよ それでいいの)

No hands beneath me now,(もう 背中の下に手はない)and still the river keeps me, like she did.(それでも 川が支えてくれる おばあちゃんみたいに)

I hear it, ears gone in,(耳まで沈めて 聴こえる)the pebbles turning over, one by one,(小石が ひとつ またひとつ ひっくり返る)the cold around my neck,(首のまわりの冷たさ)for three years, I've been floor and wall and door.(この3年 私はずっと 床で 壁で 扉だった)The river has a floor,(川には 底がある)and I can lean on it, a floating speck,(浮かぶ小さな点になって 身をあずけていい)I'm five and thirty-one,(私は5歳で 31歳)the pebbles clicking, calling me back in.(小石がカチカチ 私を呼び戻す)

Hey, . Guess what. I floated by myself.(ねえ おばあちゃん 聞いて ひとりで浮けたよ)

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

おばあちゃん仮説

人が子育てを終えたあとも長く生きるのは、おばあちゃんが孫を支えてきたからだ、という仮説がある

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

川底の音

川底で小石がぶつかり合う音を水中マイクで録って、川の底の動きを調べる方法がある

寄り道する

言葉の寄り道 ・ 歌詞の解剖

水の中の音

音は、空気の中よりも水の中のほうが、ずっと速く伝わる

寄り道する

四

あとがき

誰かを支えている人は、自分が支えられることを、つい後回しにしてしまいます。3年のあいだ、床にも壁にも扉にもなってきた人なら、なおさらです。けれど川の底では、小石が水に運ばれては下ろされ、次の石を支えながら、ずっと音を立てています。アメリカの地質調査所は、そのぶつかり合う音を水中マイクで録って、川底の動きを確かめています。岸に立っているあいだは聴こえない音も、耳を沈めれば聴こえてくる。支える側になっても、支えられていた頃の自分がいなくなるわけではありません。ときには仰向けになって、底に身をあずけてみる。そんな休み方があってもいいのではないでしょうか。

五

向かいの棚から、一冊

この本とは、少し違う見方の本です。

One Root Under the Hill信じ直す読了震えているのは、あなただけですか。

「忘れない」の棚の向かいには、「信じ直す」の棚があります。

六

次の一冊を探す

この本を閉じたら、また本棚へ。